TOPへTOPへ

ピロリ菌(萎縮性胃炎)

ピロリ菌について

ピロリ菌についてピロリ菌は、正式には「ヘリコバクター・ピロリ」という細菌の名前で、ヘリコバクターとはらせん状の細菌という意味で、ピロリは胃の幽門(出口)という意味が由来です。以前は、胃には強力な胃酸があるため、細菌が棲むことはできないと考えられていましたが、オーストラリアの医師がこのピロリ菌を発見しました。ピロリ菌は胃粘膜に生息し、慢性胃炎や潰瘍、胃がんなど様々な悪影響を及ぼします。

ピロリ菌感染の症状

ピロリ菌感染の症状ピロリ菌は胃内に入り込むと、自ら胃酸を中和する物質を作り出し、胃粘膜に感染します。初期はほとんど自覚症状はありませんが、長期間感染が続くと、胃粘膜がだんだん変質し、多くの症状が生じます。

慢性胃炎

ピロリ菌は胃の内部で、自ら持つ「ウレアーゼ」という酵素を用いて、胃内に存在する尿素を分解し、アンモニアを作って自身の周りの胃酸を中和します。このアンモニアには、毒性があり、長期間に渡るアンモニアの影響で胃の粘膜に慢性的な炎症が起こります。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍

ピロリ菌は、アンモニアの他にも酵素を何種類か産生しています。この酵素の働きによって粘膜が分解されてしまうため、胃や十二指腸の粘膜保護機能が低下し、胃潰瘍、十二指腸潰瘍が発症しやすくなります。

萎縮性胃炎

慢性的に胃粘膜の炎症が続くと、だんだん粘膜組織が薄くなって変質してきます。それによって、胃酸などを分泌する能力も低下してしまいます。この状態を「萎縮性胃炎」と言います。症状は胃痛、胸やけ、胃もたれ慢性胃炎と同じようなものですが、胃粘膜の構造が十二指腸と同じような扁平上皮に変化してしまう「腸上皮化生」が起こると、胃がん発症のリスクが高まりますので、注意が必要です。

胃がん

慢性胃炎を放置することで「萎縮性胃炎」となり、さらに「腸上皮化生」が起こると、胃がんの発症リスクは高くなっていきます。日本では、胃がんの90%以上が「ピロリ菌感染」によるものとされています。

その他の病気

ピロリ菌に感染している方の中には、「機能性ディスペプシア」の症状が見られるケースがあります。このような場合、除菌治療を行うことで、一定の割合で症状が改善または消失することが明らかになっています。そのため、ピロリ菌陽性が確認された際には、まず除菌治療を優先的に実施するのが一般的です。

その他にも「胃ポリープ」や、極めて稀な病気ですが「胃MALTリンパ腫(低悪性度のリンパ腫)」、血小板が減少して出血しやすくなる「特発性血小板減少性紫斑病」などの疾患がピロリ菌との関連を指摘されています。

ピロリ菌感染の原因

ピロリ菌感染の原因ピロリ菌は経口感染で広がっていきます。1970年代以前は井戸水を飲用としている家庭もまだ多く、衛生環境が整っていなかったため、ほとんどの人がピロリ菌に感染していたと考えられていますが、その後、水道水などの衛生環境が整い、先進国で保菌者は減ってきました。しかし、免疫機能が未発達な幼児は、保菌者の大人の唾液などに触れることによって感染してしまう可能性があります。日本では、幼児に離乳食などを口移しで食べさせる習慣が残っており、その影響もあって、先進国の中ではピロリ菌感染率が低下していないと言われています。なお、子どもから成人への感染と、成人同士での感染はまず無いと考えられています。

ピロリ菌感染の検査

慢性的に胃腸の症状がある場合は、ピロリ菌感染の検査を受けることが勧められています。検査には「胃カメラ検査の際に実施する方法」と「それ以外の方法」がありますので、患者様の状況にあわせて最適な方法を選択していくことになります。

胃カメラ検査の際に実施する方法

迅速ウレアーゼ試験

ピロリ菌はウレアーゼという酵素で尿素を分解しています。胃カメラ検査の際に採取した組織を専用の反応液に浸し、色の変化をみて、ウレアーゼの反応があれば「ピロリ菌が陽性」ということになります。

鏡検法

胃カメラ検査の際に組織を採取し、その組織を特殊な染料を使って染色して、顕微鏡で直接観察する方法です。

胃カメラ検査について

それ以外の方法

尿素呼気試験

ピロリ菌が持つウレアーゼという酵素の働きを利用します。ウレアーゼは尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する性質があり、これを応用して、炭素部分を自然界にはほとんど存在しない特殊な同位体炭素に置き換えた尿素を含む薬剤を服用します。その後、服用前後の呼気を専用の容器に採取し、炭素同位体の有無を比較します。服用後の呼気に同位体炭素が検出されれば、ピロリ菌の感染があると判断されます。この尿素呼気試験は、偽陽性・偽陰性の確率が低く、正確で安全な検査で、除菌治療の結果の確認にもよく使われています。

便中抗原検査

ピロリ菌の抗原が便中に存在するかどうかを調べる検便検査です。専用の検査キットによって患者様ご自身でサンプルを採取していただきます。

血中抗体検査

ピロリ菌に感染すると、特異的な抗体が血中に含まれるようになります。血液検査でその抗体の有無を調べます。しかし、検査時点でピロリ菌が居なくても、過去の感染の抗体が残っている可能性が否定できず、除菌治療の結果判定には不向きな検査です。

ピロリ菌の治療

検査によってピロリ菌感染が陽性となった場合、以下のような条件を満たしていれば健康保険適用で除菌治療を受けることができます。除菌治療には耐性菌による失敗もありますが、2回までは保険適用が可能です。

保険適用となる条件

  • 胃カメラ検査で胃炎や胃潰瘍・十二指腸潰瘍の確定診断を受けた方
  • 早期胃がんに対する内視鏡治療を受けた方
  • 胃MALTリンパ腫の方
  • 特発性血小板減少性紫斑病の方

胃カメラ検査によって、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどの確定診断があった場合、ピロリ菌検査自体も保険適用となり、さらにピロリ菌の陽性判定があった場合は除菌治療にも保険が適用されます。たとえ当院で胃カメラ検査の実績が無くても、半年以内に他院で胃カメラ検査を受けている場合、その結果が分かる書類をお持ちいただければ、健康保険適用で除菌治療ができますので、いつでもご相談ください。
上記以外の場合には、自由診療で10割負担となります。


ピロリ菌除菌の成功率

ピロリ菌は除菌治療に使われる抗生剤の種類によって耐性菌が存在するため、1回の治療で必ず成功するとは限りません。そのため、除菌治療のための薬を服用し終えてしばらくしてから、再度感染判定検査を受けて除菌の成否を確認する必要があります。
1回目の除菌治療の成功率は一般的には70~80%程度と言われてきましたが、最新の胃酸分泌抑制剤の使用などによって、最近ではもう少し成功率が高くなっていると言われています。2回目の除菌治療では抗生物質を変更しますので、97~99%程度除菌に成功します。2回目でも低確率とは言え失敗することもあり、その場合は3回目、4回目と成功するまで治療を続けることは可能ですが、3回目以降は健康保険が適用されず自費診療となります。

ピロリ菌除菌の流れ

1胃カメラ検査とピロリ菌検査

症状がある方は、胃カメラ検査で食道、胃、十二指腸などの粘膜の状態を丁寧に観察します。その上でピロリ菌感染が疑われる場合はピロリ菌感染検査を実施します。(胃カメラ検査で慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍などの病気が確定診断されていれば感染検査も健康保険適用で受けられます。)

陽性の場合

感染検査の結果、「陽性」となった場合には1回目の除菌治療を行います。その際、患者様の年齢、既往歴、体質などについて丁寧にお聞きした上で、ペニシリンアレルギーなどがある場合には、抗生剤の一部を差し替えることも可能です。ただし、その場合は健康保険適用外の自由診療となります。

陰性の場合

検査結果が「陰性」であれば、除菌治療は行いませんが、何らかの症状がある場合には、しっかりと原因を特定し適切な治療を進めていきます。また、内視鏡所見などから過去のピロリ菌感染が疑われる場合は、胃がん発症リスクが上昇しているため、定期的な胃カメラ検査をおすすめしています。

2ピロリ菌除菌1回目

抗生剤を2種類、除菌の効果を高めるための胃酸分泌抑制薬を1種類がセットになった除菌キットを1日2回服用することを1週間続けます。なお、除菌治療中、飲酒はお控えください。

3判定

内服が終了しても、すぐに除菌の効果は判定できません。終了後2ヶ月を経過した時期に再度ご来院いただき、再度感染検査を行い治療の結果を判定します。

陽性の場合

判定検査で「陽性」となった場合、1回目の治療は失敗です。多くの場合抗生剤に対する耐性菌が原因となっていますので、抗生剤の1種類を変更して2度目の治療に入ります。

陰性の場合

判定結果が「陰性」となれば、除菌治療は完了です。これによって慢性胃炎が無くなり、胃・十二指腸潰瘍の発症リスクも大きく低下します。さらに、胃がんのリスクも低下しますが、感染歴がある方の発症リスクは一般の方と比べて高くなっていますので、定期的に胃カメラ検査を受診することをおすすめします。

4ピロリ菌除菌2回目

1度目の抗生剤のうち1種類を変更して、同様に1日2回1週間除菌キットを服用していただきます。1回目と同様、飲酒はお控えください。

5判定

2回目の結果判定も服用終了後2ヶ月経過してから行います。

陽性の場合

「陽性」となった場合、2回目の除菌治療も失敗したことになります。除菌成功まで治療を続けることはできますが、健康保険が適用されない自由診療となります。ただし、使用出来る抗生剤の種類が増えますので、成功確率は高くなります。

陰性の場合

「陽性」となった場合、2回目の除菌治療は成功です。以降慢性胃炎、潰瘍等の発症率は大きく下がります。また、胃がんの発症確率も低下しますが、感染歴の無い方と比べるとリスクは高くなっていますので、定期的に胃カメラ検査を受けることが推奨されています。