胃潰瘍と十二指腸潰瘍について
胃や十二指腸などは層構造になっており、表面側から粘膜層、筋層、漿膜という3層で成り立っています。粘膜層はさらに粘膜、粘膜筋板、粘膜下層の3層構造になっています。
胃は強い酸性の胃酸と消化酵素を合わせた胃液を分泌していますが、これは自身の粘膜をも溶かしてしまう「攻撃因子」となります。そのため、粘膜から様々な物質が混じった粘液などを分泌し、この「防御因子」によって自身を護っています。何らかの原因によってこのバランスが崩れた時、粘膜が傷ついて粘膜筋板を突き破り、粘膜下層まで達すると胃潰瘍になります。
また、十二指腸は膵液や胆汁を食物に混ぜる働きをしていますが、この2つは胃酸を中和して十二指腸粘膜を護っています。ところが、胃の攻撃因子が勝ると、中和が追い付かなくなることで傷つき、十二指腸潰瘍となります。食後しばらく経つと胃が痛む、食間など空腹時に胃が痛むといった症状にお悩みの方はおはやめに当院までご相談ください。
胃潰瘍と十二指腸潰瘍の症状
みぞおちのあたりが痛い
やはり多くあらわれるのは「胃の痛み」で、医療用語では心窩部痛と言いますが、みぞおちのあたりが差し込むように痛みます。胃潰瘍では食後しばらくして痛むことが多く、十二指腸潰瘍では食間や食前の空腹時に痛むことが多いのですが、痛みが全くあらわれない人や、重症化してやっと痛みがあらわれる人などもあります。また、重症化すると常時痛むようになることもあります。
食欲がない、胸やけや吐き気がある
胃・十二指腸潰瘍の特徴的な症状は、激しい胃痛(みぞおちの痛み)と思われがちですが、人によっては胃痛がほとんど無く、胸やけ、ゲップ、吐き気・嘔吐、体重が減ったなどといった症状で受診して発見されるケースもあります。
血を吐く、便に血が混ざる、貧血症状がある
粘膜下層には血管が有り、潰瘍によって血管が障害されると出血し、口から戻して「吐血」となることや、便に混じって「下血」となることもあります。血液は胃液と混じると黒っぽく変色しますので、下血は真っ黒くどろどろしたタール状になるのが特徴的です。そのため、黒色便やタール便などと呼ばれます。さらに、出血によって、貧血の症状があらわれることもあります。
胃潰瘍と十二指腸潰瘍の原因
ピロリ菌感染
胃・十二指腸潰瘍の原因として最も多いのは、「ピロリ菌感染」です。ピロリ菌は正確には「ヘリコバクター・ピロリ」という細菌で、通常生物が生息できない強い酸性の胃の中に自ら作り出すアンモニアのバリアを作って生息し繁殖します。それによって、慢性的に胃に炎症が起こったり、胃液と胃壁を保護する粘液のバランスが崩れたりして、胃や十二指腸の粘膜が障害され、深くえぐれて潰瘍となります。
ピロリ菌は、その他にも慢性胃炎から胃粘膜を萎縮させてしまうことで「胃がん」を生じやすくなることもあります。そのため、ピロリ菌感染がわかったら、除菌治療を強くおすすめしています。
解熱鎮痛薬の使用
薬の副作用で胃・十二指腸潰瘍になることがあります。特に、近年問題になっているのは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と呼ばれる抗炎症作用のある鎮痛薬です。この薬は痛みの原因となるプロスタグランジンという体内物質の産生を抑制する薬ですが、胃の粘膜保護の働きにも関係があり、この産生を抑制することで、胃や十二指腸の粘膜の保護機能が弱まり、潰瘍を発症してしまうリスクを高めます。この作用は体内の血流を介して全身に影響を及ぼすため、内服薬だけでなく、坐薬、湿布薬、塗り薬といった外用薬でも潰瘍のリスクがあることに注意が必要です。
また、NSAIDsに限らず、解熱鎮痛薬やステロイド薬も、消化管の粘膜を直接刺激・損傷することがあり、潰瘍を引き起こす可能性があります。これらの薬を使用する際は、用法・用量を守り、必要に応じて胃薬を併用します。
胃潰瘍と十二指腸潰瘍の
診断・検査
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の診断のために、最も有効なのは「胃カメラ検査」です。上部消化管の病気は、どれも似たような症状があらわれる傾向があり、問診だけでは確定診断に至りません。しかし、直接、上部消化管の粘膜の状態を医師が確認できる胃カメラ検査であれば、症状の原因が炎症なのか潰瘍なのか、さらに、がんなどがあるのかを鑑別できます。また、潰瘍による出血などがあれば止血処置を行うことも可能で、検査中に疑わしい部分を発見した場合、組織を採取して病理検査での確定診断も可能です。何らかの症状でお悩みの場合は、できるだけ早めに受診して胃カメラ検査を受けるようにしましょう。
胃潰瘍と十二指腸潰瘍の治療
基本的に内服薬による薬物療法を行います。使用するお薬としては胃の攻撃要因を抑えるための胃酸分泌抑制薬、粘膜の防御要因を助けるための消化管粘膜保護薬が中心となります。また、薬剤性の潰瘍の場合は、主治医の方と相談の上、休薬または別のお薬への置き換えを検討することになります。
ピロリ菌検査の結果が陽性だった場合は、まず潰瘍の治療を優先し、症状が落ち着いた時点で除菌治療を行います。潰瘍が深くなると、大出血や消化管に穴が空いてしまう穿孔などが起こり、外科的治療が必要となりますので、症状がある場合は放置せずに、当院までご相談ください。
使用される薬の一例
患者様それぞれの体質や状態、重症度に応じて胃酸分泌薬と消化管粘膜保護薬などを適切に組み合わせた処方を行います。
カリウムイオン競合型酸ブロッカー(P-CAB)/プロトンポンプ阻害薬(PPI)
以前はプロトンポンプ阻害薬(PPI)が第一選択でしたが、近年開発されたP-CABは作用発現が早く、より強力な胃酸分泌抑制効果があるため、患者様の状態にあわせて適切な薬を選び、処方いたします。
H2受容体拮抗薬
(H2ブロッカー)
ヒスタミンが水素分子を取り込んで胃酸分泌を促進する仕組みの中心となるH2受容体(水素分子を受け入れる受け口のようなもの)を塞いで、一時的に胃酸の分泌を抑制する薬です。比較的軽症の場合に処方します。市販薬にも同様の薬がありますが、医療機関で処方する薬の方が効果は高いため、ご相談ください。
粘膜保護薬
胃粘膜を保護し修復を助けるお薬です。胃粘膜の防御要因を優位にすることによって、潰瘍の修復を促進し、再発を防ぐ働きがあります。