過敏性症候群(IBS)について
腹痛と便秘や下痢といった便通異常を繰り返す症状がありながら、大腸カメラ検査では大腸に炎症や潰瘍といった見た目で分かる器質的な病変が見当たらない場合、疑われるのが「過敏性腸症候群」です。英語ではIrritable Bowel Syndromeと言い、その頭文字をとって「IBS」と呼ばれることもあります。はっきりとした原因は不明ですが、ストレスなどの心因的要因、生活習慣の乱れなどによって自律神経が乱れることで腸の運動機能や知覚機能に問題が起こるために排便異常や腹痛が発症するのではないかと考えられています。そのため、機能性ディスペプシアなどと共に機能性消化管障害(FGID)の一種に分類されています。
近年、非常に多くの人が苦しむ病気ですが、はっきりした器質的変化がありませんので、「気のせい」などと周囲の理解を得られず、それがまたストレスとなって悪循環を起こしてしまうケースもあります。また、便通異常により日常生活に支障が出ることも多くありますが、患者様の症状に合わせた適切な治療を続けることで、必ず改善していくことがわかっています。当院でも、日本消化器病学会の専門医が患者様に寄り添った治療をしていますので、お困りの方はいつでもご相談ください。
過敏性症候群(IBS)の症状
国際的な消化器病学会のローマ部会では、症状と便の形状によって以下の4つのタイプに分類していて、それぞれに治療法が異なります。
便秘型
腹痛に伴って便秘の症状があり、便が出てもウサギの糞のようなコロコロとした小さな便が少量出るタイプです。女性に多い傾向があります。
下痢型
朝の通勤時や大事なプレゼンテーションの前など、緊張や不安によって突然腹痛と便意をもよおし、下痢の便が出ると症状が落ち着くタイプです。男性に多い傾向があります。こうした症状は1日に何度か繰り返すこともあります。
混合型
腹痛やお腹の不快感を伴い、便秘が続いた後、下痢になるというパターンを繰り返します。
分類不能型
Rome IV基準に当てはまりながらも、上記の「便秘型」「下痢型」「混合型」からは外れてしまうタイプで、ガスが多くおならを我慢できないといった症状があります。
過敏性症候群(IBS)の原因
はっきりした原因は今のところ不明ですが、ストレス、不安といった精神的な要素、食べ過ぎ飲み過ぎ、不規則な食事といった生活習慣の乱れ、腸内細菌叢の変化などによって、腸管の蠕動運動が激しくなりすぎたり、運動能力が低下してしまったりといった運動機能の障害、知覚過敏などの知覚機能障害があらわれるのではないかと考えられています。
過敏性症候群(IBS)の
診断・検査
過敏性腸症候群の診断のためには、腹痛があって便通異常の症状があらわれていることと、大腸に炎症、潰瘍、がんなどの器質的な病変が無いことの2つの条件がそろっていることが必要です。前者に関しては、問診などからも推定できますが、後者は、器質的な病気を除外診断していくためにも「大腸カメラ検査」が必須です。
なお、当院では、日本消化器内視鏡学会専門医や日本消化器病学会専門医の資格を持つ、知見・臨床経験ともに豊富な女性医師が、最新鋭の内視鏡検査システムを駆使して、かつ鎮痛剤を使用して苦痛を最小限にした内視鏡検査を行っております。
また、感染の有無などを確認するために「血液検査」や、膵臓や肝臓などの消化器疾患を確認するために「腹部超音波検査」を行うこともあります。これらの検査を経て、以下に示すRome IV基準(国際的な消化器病学会のローマ部会による診断基準)に準ずる形で診断をします。
Rome IV基準
診断基準の第4版は以下の通りです。
最近の3ヶ月の間で月に4回以上腹痛を繰り返していて、以下の3つの条件のどれか2つが当てはまること
- 排便と症状に関わりがあること
- 排便の回数の減少や増加があること
- 便の形状に変化があること
※6ヶ月以上の期間に症状があらわれていて、直近3ヶ月はこの条件を満たしていること
過敏性症候群(IBS)の治療
過敏性腸症候群の治療は、4つの型それぞれに合った薬の処方を中心に、食事指導や生活指導など、生活習慣の見直しも併行して行います。治療の効果がでるまで時間がかかる傾向があるため、あきらめずに取り組むことが大切です。
薬物療法
便秘型、下痢型、混合型、分類不能型それぞれに、運動機能の低下や亢進といった発症メカニズムが異なっていますので、患者様のタイプにあわせた処方で、まず辛い症状を緩和していきます。また、診療を続ける間に、薬の効き方などを伺いお出しする薬を細かく調整していきます。
お出しする薬の一例としては、腸管の運動機能を亢進するもの、抑えるもの、腸内の水分を調整するもの、ガスを抑えるもの、腸内細菌層を整える乳酸菌や酪酸菌といったものを中心に、漢方薬も併用することがあります。また、心因的な要素が強い方には、一時的に抗うつ薬や抗不安薬などをお出しすることもあります。
生活習慣の改善
過敏性腸症候群は生活習慣の乱れによって発症することや増悪することも多く、食事、運動などを含めた生活習慣を整えることが大切です。当院では生活習慣改善のための様々な方法を指導しております。
生活習慣改善
過敏性腸症候群などの機能性消化管障害には、ストレスなどの心的要因が大きく関連していると考えられています。そのため、しっかりとストレスコントロールを行いながら、自律神経を整えるために、不規則な生活、睡眠不足といった生活習慣の乱れを整えることも大切です。その上でストレスに対処するため、できるだけ趣味や娯楽の時間を取ることなども必要です。当院ではストレスコントロールのための方法などについても、患者様それぞれにあわせて指導をしております。
食事療法
食事内容は、まず栄養バランスに気をつけること、食物繊維をしっかり摂ること、強い香辛料などの刺激を避け、カフェインやお酒などの嗜好品は控えてください。また、脂肪分の多いものを摂り過ぎないように注意してください。食べ方としては、1日3食規則正しく食べ、しっかり噛んで時間をかけて食べ、水分もしっかりと摂るようにしてください。
運動療法
毎日、きつくない程度に運動を続けることも大切です。運動によって血流が促進され、代謝も上がります。それによって腸の活動が整ってきます。運動としては1日30分程度のウォーキングのような有酸素運動と、スクワットのようなレジスタンス運動を組み合わせることがおすすめです。